新海誠監督の集大成、映画『君の名は。』感想
-ネタバレあり感想なのでご注意ください-
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更新日:2016年9月3日
さてさてさて。
見てきましたよ、新海誠監督最新作映画『君の名は。』!!!
いやぁすごかった、素晴らしかった、びっくりした!ものすごくエンタメでものすごく眩しい映画でした!!!

この作品は『ほしのこえ』であり『雲の向こう、約束の場所』であり『秒速5センチメートル』であり『星を追う子ども』…は成分薄めですが、『言の葉の庭』であり『Z会』でもあり『大成建設』でもあり、コレほどまでに新海誠監督の要素を詰め込みながら、面倒な新海誠おじさんたちを一撃で黙らせるだけの良さがありました!!!
言うなれば新海誠監督の集大成でベスト盤で、今までの新海誠監督作品に触れてきた人も、触れてこなかった人も、「面白かったー!」と叫べる作品だと思います!

そりゃもう映画を見終わってパンフ買いに行ったら完売だったのに絶望し、そのままエレベータ待つ時間にKindleで新海監督の小説版『君の名は』と加納新太さんの『君の名は Anotherside Earthbound』買って、帰りの電車とバスで新海監督のほうの『君の名は。』を一気に読み終えたってなものですよ!!!
岐阜の山中、小さな町に暮らす女子高生「三葉」は、ある日東京で暮らす男子高校生になる「とてもリアルな夢」を見る。
時を同じくして、東京に暮らす男子高校生「瀧」も、田舎で暮らす女子高校生になる「とてもリアルな夢」を見て……。
やがて二人はそれが『夢』ではなく、現実の世界で『誰かの体に乗り移っている』『誰かが自分の体に乗り移ってきている』ことを知る。
自分の生活や人間関係を守るべく、お互いに必死でルールを決め、禁止事項を設け、それでも思考回路の違いからどんどんお互いのあずかり知らぬ事態は進展し……


そんな『入れ替わりモノ』として作られた『君の名は。』ですが、本当に「今までの新海誠作品」の中でも一番間口が広くとられた印象があります。
で、その広い間口で呼んだお客さんたちに対して『入れ替わりモノ』の定番として見せたい・描いておきたいあんなモヤモヤこんなドタバタ、そこへ不必要にこだわらないんですよね。
恐るべきテンポの良さでダダダーっと『本来の生活』『入れ替わっての生活』を駆け抜ける中で、お互いに未知の暮らしを謳歌し、不満を言い、ノートやスマートフォンのアプリに記録を残し、互いの行動に怒りを爆発させ、この状況をなんとか乗り越えようとする。
そして「初めて見る東京の景色に圧倒される」、「美しい自然に惹きこまれて感動する」心もしっかりと描ききる。
そのテンポよく畳み掛けられる描写の数々と、主人公二人の瑞々しい感性の躍動と葛藤の様子は、今まで見てきたどの新海作品にも見当たらなかったもので、あっという間に引きこまれてしまいました。

もちろん男子高校生が女子高校生の体に入ったら「おっぱい揉みたい」と思うよね、まぁ揉むよね、というのもじっくり描かれる一方で、その行動が終盤で効いてくるのもお見事でした。
要素要素の結びつけが本当に、劇中の台詞の通り『ムスビ』となって大変色んな所で巧かった。素晴らしく上手かった。
作品の冒頭の映像からしてきちんと伏線になっていましたし、ミスリードを誘うことで与える衝撃も大きかったですし、うーん、ここまで見事に時間軸をいじくりまわしながらも見事にコントロールしてみせたのって初なんじゃないでしょうか。

声についても満点で、瀧を演じた神木隆之介、三葉を演じた上白石萌音の両名は非常にうまく、特に上白石さんは三葉というヒロインを非常にヒロイン力(ちから)の高いキャラクターにしているなぁ……!と感動しました。
女の子である三葉の時もあざとすぎず、可愛らしく、そして時折田舎コンプレックスをこじらせた感じの良さ。
そして瀧が入っている時の「男としての感覚」で動いている三葉の演じ方はめちゃくちゃに巧かったですね。
また、瀧のバイト先の先輩である奥寺さんを演じた長澤まさみもエンドロールで「えっアレ長澤まさみだったの!?」と初めて気づいたぐらいに違和感なく溶け込んでいましたね。あれは良かった……とても素敵な先輩でした。
【ここからはネタバレ感想となりますので未見の人は注意してください】


個人的には過去作品だと『雲の向こう、約束の場所』が一番近いのかもしれないな、という感想も抱きました。
あの作品は「約束の場所へとたどり着き、それを自らの手で破壊し、夢のなかで抱き続けてきた想いも失った世界で、それでも同じ時間を過ごしてこれから先を生きていく」という、なんとも感傷的にならざるをえない終わり方であり、でもそうであるがゆえに恋の形としては美しいよなぁ、と思っていたわけですね。
夢の中で抱いていた想いはどこかに消えて、でもだからこそ「これから抱いていく気持ち」を大事にしていける。
そういう終わり方がどうにもたまらなく魅力的だったのです。

で、今回の『君の名は。』でも「為すべきことを成した二人がそれによって想いを失い、それでも消えなかったムスビによって再び巡り逢う」という構図。
全て忘れてしまったけれど、会えばきっと分かる。会えばひと目でこの人だと気づける。
東京の中でそんな思いを心の何処かに残しつつ生きてきた二人が、ある日本当にめぐり逢い、お互いに気づき、問いかける。
一度目は『違う時間の中を過ごしていたから』名前を伝えあえなかった。
二度目は『カタワレ時が生んだ奇跡のような時間の、ほんの少しの出会いだったから』名前を伝えあえなかった。
そんな二人が、すべてが終わって同じ時間を行きていけるようになった東京で出会い、ついに、名前を問いかけあう。
めちゃくちゃにベタだけれど美しくて、「あぁ、そうだ、こういう物語を見たかったんだ」と思った瞬間に、もう、涙がダバーっと流れてきました。

いやまぁ雪の夜のシーンでは正直
「もうここでOne More Time. One More Chanceが流れても構わん、よし殺せさぁ殺せ俺の心臓はここにあるぞ!!」という感じで覚悟を決めてたりしましたけどね!!!
というかみんな嫌な予感で歯を食いしばったりしたんじゃないですかね!!!BD発売されたらみんなでMADを作っていこうな!!

『大切すぎて思いを伝えきれずに大事に大事にしてしまった結果、初恋を失い、その初恋に引っ張られ続けた』どうしようもない恋の物語である『秒速5センチメートル』や、
『二人がお互いに真正面から気持をぶつけあった』結果、お互いに前へと歩き出せるようになった救いの物語である『言の葉の庭』。
どちらもどうしようもなく心に突き刺さる物語でしたが、それらの作品の要素を飲み込み、乗り越え、洗練させて『その先にある物語』を示してくれたことについてはもう感謝の言葉しか出てきませんね……。

この終わり方なんて新海監督らしくない!!という声もちらほら聞こえてきますが、それこそ作家がワンパターンの作品作りしか出来なったら終わりだろ……!!過去の作品を飲み込んでさらにその先、新しい見せ方を模索して実行してこそだろ……!!!と思いますので、そういう声にはNOを突きつけていきたいかな。
ここからはちょっと蛇足というか『言の葉の庭』のお話。両作品のネタバレ含むので未見の人は注意ね。
『君の名は。』の劇中に登場したユキちゃん先生(古文の先生)が、『言の葉の庭』のヒロインであった雪野先生ではないか?雪野さんですよね!?と気持ちが爆裂に盛上がっている人も多かろうと思うのですが、
ここで気になるのは『言の葉の庭』は、一体何年の話だったのか?という点です。

まず『君の名は』は、瀧の生きていた世界が2016年。三葉の生きていた(そして糸守村が消えた)世界が2013年。
作品序盤でユキちゃん先生の授業を三葉が聞いていたのは2013年の二学期、ということになりますね

映画『言の葉の庭』の劇中で詳細な日付が明記されているのは、ラストシーンで出てくる手紙の『2014.2.3』のみ。
劇中では夏休み明けに雪野さんが学校を退職したことが描かれていますが、まさか離れてから1年半が経過してから自分のことを「好きだ」と真正面から気持ちをぶつけてくれた人へやっとこさ手紙を出すなどという行動を取るようなキャラではないと思いますので、こうなるとやはり映画公開の2013年こそが『言の葉の庭』の作中世界ではなかったかな、と思うわけですね。

ただ、そうなると『君の名は。』で出てきたユキちゃん先生が糸守の高校で古文を教えているのはあまりにもおかしい……ということになってしまいますので、あれはやはり一種のファンサービス、サプライズ、スターシステムのようなもの……と捉えるのが良いかもしれません。

ただし、雪野さんがタカオに送った手紙は「あれが初めてではない」可能性もありますし、『言の葉の庭』のエンドロールをバックに移ろう新宿の季節の始まりである『梅雨』の景色が、二人が初めて出会った梅雨なのか、二人が離れてから初めて迎えた梅雨なのか……でも作中の経過時間は変わってきますので、作中世界が2012年だったとしてもおかしくはないんですよね。
ただまぁそうなると、雪野先生は四国に帰ったあと「歩けるようになって」岐阜の高校に赴任し、ティアマト彗星という未曾有のアレに遭遇し……という波乱万丈ダイナミックな人生を歩んだことになるわけで……だからこそタカオへの手紙が「長くなってしまいました」なのかもしれませんが!!!

まぁ新海監督自身が『小説 言の葉の庭』での時系列について詳細に解説されていますので、
小説版での時間の流れと映画の時間の流れを同一視するなら、ここに書いてきたこと全部ひっくり返るんですけれど。
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ただ、幸いにと言うか『なお、映画版と小説版の出来事/時間軸は微妙に異なっている箇所があります』という一文もありますので、まだ我々が『君の名は。』を、『言の葉の庭』の後の物語である……と考える余地は残されていますね(ぐるぐる目)。
パンフレットでは監督が「想像にお任せします」とおっしゃられているという話もありますし、ここはやはり想像の翼を膨らませて【その前】なのか【その後】なのか【別のお話】なのか……自分だけの解釈を固めたりするのも面白いですね。