内田弘樹 『艦隊これくしょん-艦これ- 鶴翼の絆2』感想
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発売時期:2014年6月19日 レーベル:富士見ファンタジア文庫
さてさてさて。

先日発売された内田さんの『鶴翼の絆 第2巻』の感想でございますが、
率直に言って実に面白かった!!!あと
秋イベントのこと思い出してちょっと胃に来ました!!!!!

西方海域と北方海域の二正面作戦を無事に終え、両海域を解放することに成功した喜びに沸く提督と艦娘たち。
喜びもつかの間、南方海域サーモン諸島に完成しつつある巨大な深海棲艦の泊地が発見され、
そこに対して強襲殲滅作戦をかける『SA攻略作戦』が発動される。
新型の深海棲艦、飛行場姫による圧倒的な航空攻撃と、飛行場姫を守る未知の敵との激戦、
さらに度重なる夜戦を経ることで、傷つき消耗していく艦娘たち。
地獄と化した鉄底海峡での戦いの中、ついに提督は最強の切り札と言える戦艦、大和の戦域投入を決定する。
しかし『あの戦争』での記憶を抱える大和は戦場へ出ることを拒み、ひとつの要求を提示してくるのだった……。
大和の戦域投入は叶うのか。鉄底海峡で死闘を繰り広げる艦娘たちの運命とは。
そして飛行場姫撃破の鍵である金剛が下した重い決断とは……!!!


提督諸氏が悲鳴を上げ絶望し毛根に多大なダメージを受け、タイムラインは殺伐とし、
冗談抜きで艦これクラスタ間にワリと深刻な軋轢が生まれた2013年秋イベント『鉄底海峡を抜けて!』。
あのイベントから早くも8ヶ月が経過し、その間にあった『蒼き鋼のアルペジオ コラボイベント』や、
1周年記念イベント『索敵機、発艦せよ!』の難度がそれほど高くなかったことで、
そのダメージが薄らいでいる方々も多かろうとは思います。
すでに思い出語りとして「いやぁあの秋イベはしんどかったですなぁ」と酒の肴にしている方も多いでしょうしね。

だがしかし。

第1巻で2-4海域の悪夢をきっちりと文章としてこちらに叩きつけ、胃の内壁をえぐって見せた内田さん、
本書ではそのアイアンボトムサウンドを舞台として執筆されておりまして、ええ、
今回も絶好調であります。

あの「何回出撃しても夜戦で大破祭り」「ボスに到達したのにボス殴らず終わった」「ボスに到達したのに昼戦闘に突入しなかった」「損傷艦が積もり積もって入渠待ちの列がエライことに」「主力の半数以上が何らかの損傷を受けてる」とか、
いやぁ、うん、こうでしたよね……本当こんな感じでしたよねアイアンボトムサウンド……。
すいませんちょっとお酒ください。強めの。

んで本作、アイアンボトムサウンドが舞台ということで、主人公は瑞鶴ではありつつ『主役』は金剛型戦艦組、といいますか、金剛さんがめちゃめちゃカッコいい事になっております。

瑞鶴は第1巻での出来事を経て立派な主力へと成長し、部活動での二年生ポジションになった感じがありますね(笑)。
新たに着任してくる艦娘たちの育成を瑞鶴に託すのがあの人だというのも心憎い。
海域の関係上、1巻ほど本格的な戦闘に参加するのではなく支援艦隊ポジションでの戦いが主となっていますが、
その代わりに大和を戦場へと送り出す大事な役割を担っており、精神的な成長を果たした事がよくわかります。

金剛型は飛行場を相手にした戦いということで『あの戦争』の雪辱に燃える比叡・霧島と、
その二人の意気込みを危ぶむ金剛・榛名という対比が面白く。
特に金剛さんは秋イベと同時に実装されたアレを行うことがひとつのドラマとして見事に組み上げられており、
あのイベント時点での『最強の金剛型』だったことを思い出させてくれますし、めちゃめちゃ燃えます。
いや、本当、今回の主役と言ってもいいぐらいですね金剛さん。
比叡が抱える「あの戦争」の記憶のドラマも良いですし、榛名が比叡や大和を救おうと奮闘する姿も美しいです。
また、金剛型を何としてでも飛行場姫の喉元まで行かせようと身を挺して戦う水雷戦隊も熱いんだこれが。
重巡の面々が今ひとつ見せ場少ないのはちょっと悲しいところですが……

そして大和さんですよ。
本作での大和さん、レイプ目と言うよりは眉間にシワが刻まれてヤサグレている感じなんですけども
それが終盤ではもうね、本当ね、カッコいいんだこれが!!!!!!!!!!!!!
最大最強の戦艦がその死力を尽くして戦う敵の事も含めて、秋イベントをクリアした提督みんなの心にグッと来る物語になっていると思いますよ!!!

秋イベントE-4海域が金剛型戦艦2隻の編成じゃないとボス前ルート確定が出来なかったのに加え、
E-5海域でも速度統一感隊じゃないとボス固定ルートに進めなかったこともあり、
大和さんは専ら決戦支援艦隊での砲火力担当艦としての運用にとどまり、全力を発揮させてあげられなかった人が大半だと思うんですけども。
本作ではその「支援艦隊だった」部分を非常にうまく活かした見せ場が用意されています。
金剛さんとはまた違った方向で抜群の存在感、というかいやぁ本当素晴らしいですよこれ!!!

それと同時に、大和さんの抱える『あの戦争』の記憶と体験が非常に重く、こちらの胸にズシンと響きます。
あの戦争で果たしてしまった役割、果たせなかった役割、そして組織の体面を保つためだけの出撃と、最期。
『もっとも醜い部分を見てしまった』艦娘である大和が、艦これ世界で艦娘として生を受け、最大最強の戦艦としての自分とどう向き合うのか。
ここのドラマは是非とも本編を読んで体験していただきたいと思います。

実際、大和さんを獲得するために死力を尽くした2013年夏イベントを終えて大和さんを無事にお迎えした時の感情って
「今度こそ、艦隊の主力として敵の主力戦艦と思う存分に殴り合わせてやるから!!!」というもので。
史実では叶うことのなかった堂々たる砲撃戦での殴り合い、艦隊決戦をしっかりとさせてあげたい、という思いが強く、
その結果として去年の秋の時点でレベル93まで上がってたりしたんですけども(遠い目)。

そういった「今度こそ大和を」という思いについては、内田さんの過去の仮想戦記著作『戦艦大和欧州激闘録』でも存分に描かれていますが、
今作でも読んでいて「あぁ、やっぱりわかっておられるわ……」と思わされましたね。

あと提督が相変わらずセクハラ提督としての片鱗を見せつつも、パトレイバーの後藤隊長的な切れ者感を示していて非常に良い感じです。
秋イベントを死に物狂いで我々提督勢がぶん回して短期間で無理な出撃を重ね続けた辺りなんかを、
ああいう形で物語に組み込んでくるとは。
艦娘とは違い、前線には立てない『ただの人間』である提督が、自分自身にできる戦いこと……すなわち艦娘たちを守るための『上層部との戦い』を繰り広げながらも、艦娘たちにはそれを見せない……と言うのはカッコいいですよね、やっぱり。
それを理解して臨時秘書官を勤めてる鳳翔さんの良妻っぷりがもう、何というか、他の艦娘が立ち入る隙間はないなこれ感もありますが(笑)。

魔太郎さんによるイラストも非常に綺麗かつ可愛らしく描かれており、これカラーイラストで全部見たいなぁと(笑)。
個人的には祥鳳・瑞鳳姉妹のイラストがあったのが嬉しいところで、ええ、祥鳳さんデカイ。
というか瑞鳳……うん、頑張れ……マジ頑張れ……小さいのも好きだけどそれはそれとして頑張れ……。

あとがきでは次巻がある旨のコメントが見られましたし、作中でも大鳳さんや海外艦娘のことにも触れられており、
これが第3巻の内容になるのかな……?とも思いつつ、次のモチーフとなる海域がどこなのか、楽しみでなりません。
5-5海域とかだとまた胃に穴が空きそうですが!